荒巻 慶士

UPDATE
2017.09.26

その他

死に向かうリアリティ

    先日、死にまつわるドキュメンタリーをテレビで見ました。敬老の日の夜、NHKの放送でした。がん患者の死を多く看取ってきたという医師が、自ら末期がんを患っていることがわかり、その死までの1年余りが映像で記録されたものです。最近、あまりテレビを見なくなりましたが、時々こういう素晴らしい番組に出会うことがあります。

 番組では、住職でもあるという医師の田中雅博さんが、たんたんと死について語る場面に始まり、火葬場で焼かれ骨となるまでの光景が、時の推移にしたがって、映し出されていきます。その過程は、死の〝プロ〟ともいうべきこの男性にとってさえ、いら立ち、不安、苦しみを免れるものではありません。

 死というものは、抽象的なものではなく、言おうとしていることが言えないとか、ものごとを覚えていられないとか、好きだったアイスクリームすらのみ込めないだとか、目の前にいることが当たり前の、家族ら、親しい者が見えなくなるという、極めて具体的なことがらであり、その周囲の者たちが、会えなくなるという全く同じ思いをするという点で、自分だけの恐怖ではないことを、深く思い知らされます。

 静かさに至る道のりは、なだらかな坂道ではない。それを含めて受け入れることが死に向かう境地であり、そこに立つことは真に勇気のいることです。その覚悟は、テレビカメラを前にしてありのままの姿を撮影することを許したところに、たしかに感じ取ることができました。

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