後藤 慎吾

UPDATE
2017.12.13

その他

若い時の苦労

我が事務所では、企業の海外進出支援や国際法務対応に力を入れており、これまでに取り扱った案件も、英文契約書の交渉・作成・レビュー、外資系企業の本社社員とのコミュニケーション、海外の弁護士との連携など渉外的要素を含むものが多くありました。今でこそ、このような案件に支障なく対応できていますが、それができるようになったのも、渉外案件に必死になって取り組んだ若手時代があったからだと思っています。

 

私は、弁護士として仕事を始めるまで英語に対する苦手意識が強かったように思います。付属校から大学に進学したので大学受験を経験しておらず、また、その後も、弁護士実務の中で渉外案件を扱うようになるまでほとんど英語に触れる機会を得ようしなかった(むしろそれから逃げていたといった方がよいかもしれません)ので当然です。そんな私が司法修習修了後に入所した法律事務所は、渉外分野で有名な事務所だったのですから無謀としかいいようがありません。

 

その法律事務所に入所した後は、金融分野に興味があったことから、キャピタルマーケットという、企業が株式や社債等の有価証券を発行し市場から資金を調達する際の法律業務を担当することが多くなりました。そして、弁護士3年目のときから、企業がユーロ市場やシンガポール市場などの海外市場で資金を調達する案件を任されるようになりました。この案件では、企業が投資家に配布する目論見書や現地の主幹事証券会社と締結する契約書などはすべて英語で作成しなければなりません。その分量も数百ページに及ぶ膨大なものです。また、発行金額が数百億円に及ぶような高額な案件も多く、それらの法的書面に間違いがあれば発行会社に多大な損害を与えるかもしれないと思うと、英語表現の一言一句にまで気を遣わなければなりません。どれだけやっても終わりが見えず、終電を逃しタクシーで帰宅する毎日。当初はこれらの書面のドラフトやレビューにとても時間がかかり、私はこの仕事に向いていないのではないかなどと悩むこともありましたが、夜通し英文契約書を読み込む毎日を何年も続けると、その独特の用語や構造が頭の中に叩き込まれたのでしょうか、いつしか苦も無くこれらの業務を行うことができるようになっていました。

 

若い時の苦労は買ってでもせよ、とよくいいます。人が80歳まで生きるとして、20歳のときにした苦労によって得た経験・知識・技術といったものはその後60年間の人生の財産になりますが、60歳の時にした苦労によって得た経験などはその後20年間の人生の財産にすぎません。であれば若い時に苦労した方がお得なわけですね。現在、政府は「働き方改革」の名のもとに長時間労働対策を講じることを掲げています。総論としては賛成ですが、労働はお金をもらうためだけにするものではありません。経験・知識の蓄積や技術の向上といった自分自身の財産構築の意味合いもあるわけです。そのような財産を築くためにもっと働きたいと考える若者がその希望を叶えられるようにしてあげることも必要なことだと思います。今年、私自身四十路に入り、弁護士生活も15年目を迎えました。私は、ずいぶん前に若者とは言えない年齢になってしまいましたが、それでも、職業生活はまだ折り返し地点にも達していません。これからも更なる財産を築くために一層の努力をしていきたいと考えています。

 

早いもので2017年も残すところ1月を切りました。2018年も、これまで同様、クライアントの皆様とのご縁を大切にしながら、社会に意義のある仕事をしていきたいと思っています。本年のご厚情誠にありがとうございました。また、来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

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