荒巻 慶士

UPDATE
2020.09.28

その他

心のビート

 人に頼んで心臓の鼓動を聴いた。

 ドアに響くノックのようである。たしかに、胎児のくぐもった心音は、未知の世界の扉をやわらかく叩いている。

 生まれた後も止まることなく刻み続けるドラムのビートは、速くなり遅くなり、手足や声に向けてタクトを振る指揮者のようだ。

 

 死のニュースを聞かない日がない。

 この春からはコロナ死の数を知らされる毎日だ。仕事でも、私生活でも、身近な人の訃報に接することも多い。

 

 心拍は死ぬ前に遅くなるか。

 突然止まるのか。

 余韻を残して終わるひとつの曲を思う。

 

 

荒巻 慶士

UPDATE
2020.07.15

その他

一国二制度の終焉

    香港は終わった。ネット上では、そんなつぶやきが聞かれた。先月30日、香港国家安全法が成立、施行されたことを受けてのものだ。

 これにより反中的な言動が犯罪とされるおそれが生じ、彼の地における政治活動の自由は著しい制約を受けることとなった。早速、その翌日の今月1日には、逮捕される者が出た。最初の逮捕者は、バックパックの中に「香港独立」と書かれた旗を持っていたのだという。

 

 日本では憲法上保障される権利を不当に制限するものとして、違憲無効とされる法律といえるが、香港においても、デモ隊の覆面を禁じる条例に関し、裁判所が憲法に相当する香港基本法に違反すると判断し、この条例の執行が停止されたことがある。これについては、昨年11月のコラムで、香港は中国に属することにはなったが、一国二制度はまだ維持されているのだと認識したと書いたところだ。

 

 香港基本法はそのままであるから、国家安全法もこれに反し無効ともいいうる。香港の立法機関である議会の議決を経ていない点でも、その違憲性は明らかだといえるが、国家安全法によれば、国家の安全にからむ事件を審理する裁判官は行政長官により指名されるのだという。

 そうすると、同法を違憲無効と判断される余地はまずないということになる。

 

 国家安全法の内容と制定の経過を見れば、香港において、政治活動の自由とともに、それを制度的に担保する三権分立が排除されており、一国二制度はまさに終焉したといえそうである。

 同法の施行を伝えた新聞は、その紙面で、ふるさと納税に関し泉佐野市が国に逆転勝訴した最高裁判所の判決を報じていた。自由主義・民主主義という価値を国の根底に据える日本国民として、香港市民の〝窒息〟には黙っていることはできない。

荒巻 慶士

UPDATE
2020.05.06

その他

緊急事態宣言の延長に際して

  瞬く間に感染の広がりを見せた新型コロナウイルス。わずか1か月で国内外の様相が一変した。自由な外出はままならず、不要不急とは何か日々判断を迫られる。まるで良心を試されているようだ。

 

 わが事務所のある日本橋界隈も、デパートなど商業施設は軒並み営業を取りやめ、神田方向に多くある小規模な店舗には当初営業をしているところもあったが、先月の緊急事態宣言後、ほとんど休業へ傾いた。街は閑散として静まり返っている。

 当事務所も、秘書ら事務局の出勤をできるだけ控えてもらい、弁護士が中心に事務所を守る形にした。法律相談もメールや電話、ウェブ会議などを利用して続けているが、不便なことこの上ない。しかし、こんな時こそやれることをしっかりやる、必ず克服できる問題と心得て前を見ている。

 

 何と言っても直撃を受けているのは、業務のスタイル上人が集まらざるを得ない小売・飲食・ホテルなどのサービス業だろう。そこに働く人の暮らしや経営者の心労を思う。緊急事態宣言が延長され、売上のない中で負担を続ける人件費や賃料などの固定費は、まさに死活問題であろう。

 人件費については、雇用調整助成金の拡充が始まり、賃料についても公的な支援が検討されていると聞くが、手を差し伸べる速度も問題だ。

 

 営業の自粛要請は、法律に基づく国や自治体の要請だ。客観的に見て使用・収益ができない状況の下で、その対価である賃料を何とかしてくれという考えは公平に適う。借主の創意・工夫も必要だろうが、賃料が免除・減額されるべきであるという考えには法的な根拠がある。公的な支援がなかなか届かない場合には、手を挙げてしまう前に貸主との協議・交渉をしてみてほしい。弁護士が助力することも可能だ。

 

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