荒巻 慶士

UPDATE
2023.09.28

その他

息長く働ける環境を

 先ごろ、ふとした拍子に腰を痛め、数日、安静に過ごすはめになった。ベッドで横になりつつ、1週間分の仕事を延期するなど調整し、時々身体の向きを苦労して変えながら、心当たりを考えた。力を入れていたゴルフのスイング改造はどこかで影響したか。

 総じて健康と信じる中で思わぬ落とし穴だった。

 

 人手不足に寿命の伸びが相まって、60歳定年? そんなころもあったっけと、振り返るような時代が近づいている。とはいえ、今夏、妙に刺さった「気候沸騰化」の言葉どおり、暑さの堪えるお年頃ではある。

 

 労働相談の現場では、中高年世代の労働災害、私傷病、これにまつわる使用者の安全配慮義務に関する案件が増えているという実感がある。

 同じ世代でも、健康状態には個人差が大きく、持病、症状さまざまで、会社ではケースバイケースの判断、対応が必要となる傾向が顕著だ。

 

 社員の側でも、担っていける業務の質と量がどれくらいか、引退のタイミングは? いろいろと迷うことも多いだろう。

 年代に限った話ではないが、体調の悪化や体力の低下という局面においても、安全に安心して、息長く働ける環境を作ることが喫緊の課題になっている。政策の後押しも重要であり、社会全体で考え、取り組むことが必要だと思う。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2023.07.11

その他

繰り返す惨禍から学ぶべきこと

 ウクライナに対するロシアの軍事侵攻は、今月8日で、開始から500日となった。ここに至り、ロシアでは一部の軍隊が国に反旗を翻し、内乱に発展しかねない事態も起きている。

 長引く混乱の中で、子どもとの死別や家族の離散…、声なき弱者を見舞っている悲劇を思うと、心が塞がれる思いだ。一体何を歴史から学んできたのか。

 

 戦地と地理的には離隔している日本にも、影響は出ている。物価の高騰や安全保障面からの取引の制約、アジアにおける中国を念頭に置いた政治的挙動などについてだ。

 その最中、主要7か国によるサミットは、広島で行われた。核による惨禍を世界のリーダーに知らしめる機会になったが、この凄まじい兵器の抑止力を同時に再認識させたかもしれない。その脅威が保有国に対する全面的な攻撃を差し控え、戦火を長期化させるとしたら、皮肉なことだ。

 

 単純な対抗を考えれば、軍事力の強化で、行きつく先は徴兵や核武装となるだろう。支障となる憲法は改正すべきものとなるかもしれない。他方で、生存、生命、幸福を守るため、平和主義の重要性を念押しするという対極の見解も導くことが可能である。

 どちらが破滅に近いか。

 

 教えられることがもう一つある。

 情報の制約が合理的な判断を鈍らせるということだ。正しい判断のため、情報の自由な流通を守るということ。国家の情報流通への介入について警戒を怠るべきではない。他方、個人情報の取扱いに神経質になりすぎるのは考えものとは感じている。

 

荒巻 慶士

UPDATE
2023.05.27

最近の法律関係情報

中小企業の過重労働

 一定時間以上の残業に対する割増賃金の割増率をアップする労働基準法の規定が、この4月から中小企業にも適用されている。

 ひと月の時間外労働が60時間を超えた場合、賃金を通常より5割以上割増しして支払わなければならないこととする労働基準法37条1項で、大企業に対しては平成22年4月から適用され、これに則った運用がなされているが、中小企業に対しては、長らく適用が猶予されてきた。深夜残業と重なった場合には、75%以上の割増しとなるから、確かにそのインパクトは大きい。

 

 これを踏まえた対応は、対象となる企業側において十分なされているだろうか。経験的に窺い知る中小企業の実情を考えると、不安を禁じ得ない。

 大企業と異なり、法務・コンプライアンスに関わる人材は不足し、適法に業務を管理する体制は脆弱で、弁護士など日常的に相談できる外部の専門家を持たない会社も多くあるのではないか。そもそも法令を守ろうとする意識が十分でなく、問題に気づいても、これを調べたり、相談しようという習慣が乏しい傾向がある。

 

 残業代の割増しに関しては、払えばよいという問題ではない。過労死につながるような過重な労働をなくすこと、長時間労働を抑制するのが目的である。

 そもそも一日8時間、週40時間を超える労働(残業)については、労働者代表との協定(36協定)が必要であるが、この協定すらない、形の上であったとしても代表を社員の意思に基づいて民主的に選出していない、就業規則もあったとしても、周知されていない、こうした基本的なルールすら守られていないケースがまま見られる。

 

 大企業の過重労働がマスコミに取り上げられ、世間の関心事として社会的に注目される陰で、中小企業の労働環境が見過ごされている実態はないか。違法に残業させれば、代表者に懲役刑が科されうる。残業代の不払いも犯罪として罰金刑がある。

 中小企業が抱える課題には、私たち法の専門家を含め、真摯な取り組みが必要だ。目立たぬ〝ブラック〟に目をつむることがあってはならない。

 

 

 

 

 

 

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