後藤 慎吾

UPDATE
2022.06.29

その他

可塑性

最近はご無沙汰しているが、若いころは時折少年事件を扱った。

 

年齢や事件の内容などにもよるが、少年事件は、20歳以上の成人の刑事事件と異なり、弁護士は、「弁護人」としてではなく、「付添人」として活動を行う。また、刑事裁判所の公開の法廷ではなく、家庭裁判所の非公開の審判廷で審判が行われる。裁判所が下す決定も「判決」ではなく「保護処分」であり、その内容は、刑罰ではなく保護観察や少年院送致などである。

 

このように少年と成人とで違いが生じる理由の一つに、少年には「可塑性」があることが指摘される。広辞苑をみると「可塑性」とは「変形しやすい性質」をいうとされている。少年事件との関係では、少年は、成人に比べ、教育や環境調整次第で立ち直りを期待しやすいという意味で用いられる。

 

私が大阪で司法修習をしていたとき、泊りがけで少年院を訪れ、少年たちと生活を共にするというカリキュラムがあった。夏の盛りに、少年たちと農作業や運動をして一緒に汗を流したのを覚えている。私の前にいる彼らは、実に無垢な少年たちであった。私は少年の「可塑性」をそこに見た思いがした。

 

今年は、記録的に早く梅雨が明けた。彼らは今どうしているのだろうか。夏の青空の下で見た少年たちの日焼けした笑顔がふと脳裏に浮かんだ。

荒巻 慶士

UPDATE
2022.05.24

その他

住む場所を変える

 最近、転居をした。近くではあるが、荷物をまとめ、部屋をきれいにし、家具を整え、箱を開いて、収納することには、相当な労力を要することを改めて認識した。住所変更に伴う諸手続はまだまだ終わっていない。

 

 慣れているはずだがと思い返すと、これまで引っ越しの回数は20を軽く超えている。それぞれ相応の理由はあるが、生活をリセットしたくなるところもある。本や書類、衣類や食器、身の回りの品々を手に、処分・整理を決めて、身軽になると、気分も変わる。新たなことがしたくなってくるものだ。

 

 転がる石のように転々と、場所に囚われない生き方も悪くないと思い、あこがれたこともある。見慣れない景色、未だ知らない文化と出会う生き方。海外において実際に、そんなライフスタイルを貫いている人もあると聞く。その自由な視界には、どんな地平が広がっているかと思ったりする。

 

 目を転じれば、天災や戦争で意思に反して住み慣れた場所を離れなければならない人がいる。望郷を胸にした新たな生活が、未来を展望できるものであってほしいと願う。

後藤 慎吾

UPDATE
2022.04.11

その他

M&A

昨年夏から売主側のアドバイザーとして関与したM&A(企業の合併・買収)の案件が、先月、クロージング(決済)を迎えた。九州であった調印・決済式に立ち合い、関係者とプロジェクト成功の喜びを分かち合った。

 

私にとってM&Aは弁護士登録以来注力してきた分野の一つだ。

 

M&Aは、①秘密保持契約書の締結、②初期調査、③基本合意書の締結、④デューディリジェンス(企業価値調査)、⑤M&Aの障壁となる課題の解決、⑥株式譲渡契約等のM&A契約の締結、⑦クロージングという一連のプロセスを経て結実する長期のプロジェクトであり、弁護士は、いずれのプロセスにおいても、依頼者の最善の利益のために行動することが求められる。

 

また、弁護士は、例えば、デューディリジェンスにおいて、法的な観点から対象会社の問題点を検証し、また、株式譲渡契約等の交渉や検討の場面では、依頼者が契約に基づいてどのような法的責任を負うのかを分析することとなるが、それらの分析を行う前提として、対象会社のビジネスを深く知ることが重要である。対象会社の競争力の源泉は何か、業界の慣行はどのようなものかといった事柄について理解していなければ、法的な分析も見当違いなものとなり、交渉での自らの発言の説得力にも影響が生じる。これまで様々な業界のM&Aに関与してきたが、それぞれの案件に関与する過程で、自分が知らない世界に触れることができる点もM&A案件を取り扱う醍醐味だ。

 

M&Aは、それ自体が目的なのではなく、会社が存続し、成長するための手段にすぎない。買収の対象となる会社にとっては、M&Aは通過点に過ぎず、それを糧として今後どのように成長していくかが問われることになる。今回関与した案件の対象会社も、M&Aを契機として、さらに成長を加速していってくれることを願っている。

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