後藤 慎吾

UPDATE
2017.06.23

その他

You can only connect the dots looking backwards.

今年の初めからある海外スポーツブランドの日本法人立上げのお手伝いをさせて頂いています。独立前まで在籍していた米国ローファームの東京オフィスにおいて、外国企業の日本進出の案件に携わったことがあり、今回の案件においてはその経験がうまく活かされることになりました。

 

表題の一文は、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチ(Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address)の中にある有名なフレーズです。日本でもこのスピーチよく知られていますよね。私も留学準備をしていた時に英語の勉強を兼ねて何度も聞きました。ジョブズは、大学を中退した後も大学に留まり興味の赴くままにカリグラフィーの授業を受けましたが、そこで得た知識が後年Macintoshのデザインに活かされることになります。彼がカリグラフィーの勉強をしていた当時は、後に自分がMacを製作することになるなんて全く想像もしていなかったわけです。そういった経験を踏まえて、彼はこう言っています。

 

“You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something – your gut, destiny, life, karma, whatever. Because believing that the dots will connect down the road will give you the confidence to follow your heart even when it leads you off the well-worn path and that will make all the difference.”

 

すべての人について言えることですが、今ある自分自身というものは、これまでの日々で得た経験、知識、出会い・・・の集合体であるわけです。将来のことをあれこれ思い悩むのではなく、将来においてそれらが何らかの意味を持つことを信じて、自分が好きだと思えることに真剣に取り組めということ言っているのだと思います。ジョブズは、このスピーチの中で、彼自身の経験から、今を愚直に生きるということの大切さを教えてくれています。

 

翻って考えてみると、私自身も、これまでの道のりで得られた周りの方々とのつながりやこれまでに習得した知識・経験がなければ、冒頭で触れた案件の依頼はなかったでしょうし、また、そこでの経験がさらに次の仕事に繋がっていくものなのだと思います。後先のことは考えずに、日々頂いた仕事を真剣に、愚直に、そして感謝の念をもって行う。独立して1年余りが経った今、その大切さを改めて実感しています。

荒巻 慶士

UPDATE
2017.05.30

最近の法律関係情報

憲法改正の必要性

 今月3日の憲法記念日に首相が2020年に改正憲法を施行するとの考えを表明し、マスコミの中にもこれに賛同する論調が見られました。その後、首相が示した9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという提案について、賛成が半数を超えたという世論調査の結果も報道されています。右とか左とか、安易にレッテルを貼られることに抵抗感があって、政治的にわたる言葉には慎重になりがちですが、まさかと思ううちに、あれあれ、おいおいという感覚の下に、法律の専門家として、意見を述べておきたいと思います。

 それは、現憲法を改正する必要はまったくないというものです。現在、改正すべき点として議論されていることのほとんどは、法律レベルで対応すればよいことで、中にはそれすら不要、単に政策として実行すればよいというものもあります。高等学校の義務教育化はそういったものの例です。また、首相の提案する自衛隊の明文化についても、今や、自衛隊という名前の組織を違憲と考える人はほとんどいないでしょうから、その必要性は低いと言わざるを得ません。首相は、多くの憲法学者が自衛隊を違憲と言っていると述べているようですが、それは自衛隊のあり方が問題とされているのではないでしょうか。自衛のための組織としてのあり方については、その組織の存在とは別に不断に問われるべきものでしょう。

 憲法の改正が法律の改正とは異なるポイントが2つあります。まず、憲法は、国家と国民の関係を規律し、国家権力を抑制しているものであるということです。例えば、民法は私人と私人の間のルールを定めていますが、こういった下位の法律とは性質が異なることに留意が必要です。憲法上、国家は国民の権利・利益を擁護すべき存在であり、権力の行使についていわば手かせ足かせをはめられています。したがって、権力の側にいる政治家がこれを変えようとする動きには、注意が必要といえます。憲法が制度化している三権分立の仕組みに則って、裁判所は、議員定数不均衡に関して、何度となく、違憲性を指摘してきましたが、これを是正しようと動きは政治の側において遅々として進まなかった現実があります。このような政治家が憲法を大切にしこれを良いものにしようとしてくれると信頼できるかというと、相当な疑問があるというほかないように思います。

 2つ目のポイントとして、憲法を押さえておけば、三権分立の下、司法の牽制が働くということです。憲法に違反する法律改正に対して、裁判所はその効力を失わせることができます。ところが、憲法自体を変えられてしまうと、違憲審査のよるべき基準が変わるので、もはや司法により是正ができなくなるのです。

 このように、憲法は変えにくいことに意味があり、改正については慎重のうえにも慎重に、政治への十分な信頼を基礎として、強い必要性が認められる場合に行うべきだと考えます。自衛隊は災害時に頑張っているから、明記してあげても…などという次元の話ではないことをよく理解する必要があります。改憲より注力すべき立法政策課題は、たくさんあるのではないでしょうか。

 

後藤 慎吾

UPDATE
2017.04.14

その他

当たり前のことだからこそ

本日、私が執筆した「適格機関投資家等特例業務の実務―平成27年改正金商法対応」が中央経済社から刊行されました。編集・校正・装丁の担当者の方々を始め多くの方のご尽力があってここに至ることができました。心より感謝申し上げます。

 

私の著書がどれだけの方の手に取っていただけるかはわかりませんが、わが国で発行部数500万部を超える書籍は「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子)、「道をひらく」(松下幸之助)、「ハリー・ポッターと賢者の石」(J.K. Rowling)の3つしかないそうです。私は事務所までバスで通勤しているのですが、今その行き帰りで「道をひらく」を読んでいます。

 

「道をひらく」は、松下幸之助が記した121篇の短文をまとめたものであり、「その一篇一篇は、時にふれ折にふれての感懐をそのまま綴ったものであるが、この中には、身も心もゆたかな繁栄の社会を実現したいと願う私なりの思いを多少ともこめた」(まえがき)と説明されています。本書では、誠意・感謝・精進・素直・工夫・勤勉・忍耐といった人が備えるべき品性・人格的能力の大切さについて述べられているのですが、人が生きていくうえでそれらが体現されるべきことは私たちの胸の内に刻まれていたとしても、普段の生活においては忘れがちで、このことに思いをめぐらすことはあまりないのではないかと思います。

 

私は、数年に一度は「道をひらく」を紐解くようにしています。それは、上記の普遍的な道徳的価値について今一度意識的に考えてみる契機を与えてくれるからです。松下幸之助の実直な、そして味わい深い言葉に接することで、自分自身の生活や仕事上の行状を振り返り、自らの愚かさ・浅はかさに気づかされ、心をあらたにすることができるのです。その一篇一篇は、そうした内省の機会を読む人に与えてくれます。「道をひらく」にはある意味で当たり前のことが連綿と書かれているのですが、当たり前のことだからこそそれを真剣に語りかけてくれる書籍は実は少ないのだと思います。この書が発行から既に半世紀を経ようとしている現代でも売れ続けている理由はまさにここにあるのでしょう。

 

さて、わが書の発行部数は「道をひらく」に比べたらほんとうに微々たるものであろうと思いますが、購読いただいた方に少しでもお役に立てればと願っています。

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