荒巻 慶士

UPDATE
2018.01.26

最近の法律関係情報

セクハラか、それとも口説きか

    新しい年を迎えました。ご挨拶が遅れましたが、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。早いもので当事務所も、この3月で開設からちょうど2年となります。これからもますます皆様のお役に立てるよう尽力して参ります。

    さて、今年最初のコラムは、近年ご相談が増えているセクシャル・ハラスメントについて書きたいと思います。

 

    女性は、これってセクハラですよね、という。

    男性は、たしかに少しやりすぎたかもしれないが、相手も嫌がってなかったし、という。

    寄せられた被害申告を踏まえて会社が直面する当事者本人の言葉として、よくあるケース。さて、これをどうしたものかと困ってしまうわけです。

 

    テレビや映画の優秀作品を選ぶゴールデングローブ賞の授賞式が今月7日、米国・ロサンゼルスで開かれ、例年は色とりどりの華やかな衣装をまとう女優たちが、今年はセクハラに抗議して、決まって黒のドレスで登場したことが話題になりました。他方で、その2日後に、女優カトリーヌ・ドヌーブさんらが、仏・ルモンド紙に、男性に口説く自由は認められるべき、と意見を発表したことが報道されました。

    もちろん性的暴力を容認する趣旨ではないと思いますが、〝恋愛大国〟からこのような発言が出て、その行為は適法なのか違法なのか、境界線は実は曖昧だということを改めて感じました。

 

    当事務所は、予め使用者側、労働者側と決めてご相談を受けていないので、セクハラの相談も、会社、加害者、被害者、労働組合といろんな立場の方から持ち込まれてきます。聞いてみると、それぞれ言い分があり、その主張には相応の正当性が認められることも多いのです。

    職場の環境は大切で、女性を始め、弱い立場の者でも気持ちよく働くことができるよう、会社は配慮すべきです。しかし、私生活もやはり重要。過干渉な会社はいただけない。職場で花咲く恋もあるはずです。あだ花や不倫の妖しい花となって問題化することもたしかに多いのですが…。

 

    法的に決着させるとすると、グレーという結論はありません。どこかで境界線を引くことになります。具体的な事情を踏まえて判断することは当然ですが、その境界は、突き詰めていうと、その時代の社会通念、つまり常識で決まるといえます。これに従い、現在、「アウト」の領域が広がりつつあるのは理解しておくべきでしょう。さて、愛の国フランスではどうでしょう?

 

後藤 慎吾

UPDATE
2017.12.13

その他

若い時の苦労

我が事務所では、企業の海外進出支援や国際法務対応に力を入れており、これまでに取り扱った案件も、英文契約書の交渉・作成・レビュー、外資系企業の本社社員とのコミュニケーション、海外の弁護士との連携など渉外的要素を含むものが多くありました。今でこそ、このような案件に支障なく対応できていますが、それができるようになったのも、渉外案件に必死になって取り組んだ若手時代があったからだと思っています。

 

私は、弁護士として仕事を始めるまで英語に対する苦手意識が強かったように思います。付属校から大学に進学したので大学受験を経験しておらず、また、その後も、弁護士実務の中で渉外案件を扱うようになるまでほとんど英語に触れる機会を得ようしなかった(むしろそれから逃げていたといった方がよいかもしれません)ので当然です。そんな私が司法修習修了後に入所した法律事務所は、渉外分野で有名な事務所だったのですから無謀としかいいようがありません。

 

その法律事務所に入所した後は、金融分野に興味があったことから、キャピタルマーケットという、企業が株式や社債等の有価証券を発行し市場から資金を調達する際の法律業務を担当することが多くなりました。そして、弁護士3年目のときから、企業がユーロ市場やシンガポール市場などの海外市場で資金を調達する案件を任されるようになりました。この案件では、企業が投資家に配布する目論見書や現地の主幹事証券会社と締結する契約書などはすべて英語で作成しなければなりません。その分量も数百ページに及ぶ膨大なものです。また、発行金額が数百億円に及ぶような高額な案件も多く、それらの法的書面に間違いがあれば発行会社に多大な損害を与えるかもしれないと思うと、英語表現の一言一句にまで気を遣わなければなりません。どれだけやっても終わりが見えず、終電を逃しタクシーで帰宅する毎日。当初はこれらの書面のドラフトやレビューにとても時間がかかり、私はこの仕事に向いていないのではないかなどと悩むこともありましたが、夜通し英文契約書を読み込む毎日を何年も続けると、その独特の用語や構造が頭の中に叩き込まれたのでしょうか、いつしか苦も無くこれらの業務を行うことができるようになっていました。

 

若い時の苦労は買ってでもせよ、とよくいいます。人が80歳まで生きるとして、20歳のときにした苦労によって得た経験・知識・技術といったものはその後60年間の人生の財産になりますが、60歳の時にした苦労によって得た経験などはその後20年間の人生の財産にすぎません。であれば若い時に苦労した方がお得なわけですね。現在、政府は「働き方改革」の名のもとに長時間労働対策を講じることを掲げています。総論としては賛成ですが、労働はお金をもらうためだけにするものではありません。経験・知識の蓄積や技術の向上といった自分自身の財産構築の意味合いもあるわけです。そのような財産を築くためにもっと働きたいと考える若者がその希望を叶えられるようにしてあげることも必要なことだと思います。今年、私自身四十路に入り、弁護士生活も15年目を迎えました。私は、ずいぶん前に若者とは言えない年齢になってしまいましたが、それでも、職業生活はまだ折り返し地点にも達していません。これからも更なる財産を築くために一層の努力をしていきたいと考えています。

 

早いもので2017年も残すところ1月を切りました。2018年も、これまで同様、クライアントの皆様とのご縁を大切にしながら、社会に意義のある仕事をしていきたいと思っています。本年のご厚情誠にありがとうございました。また、来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

荒巻 慶士

UPDATE
2017.11.29

企業法務関連情報

懲戒の心得

    会社の人事担当の方から、社員を懲戒できるか、できるとしてどの程度の処分が相当かについて、相談を受けることがよくあります。

    これは、すぐには回答が出ない相談で、懲戒対象となっている社員がどんな人か、どのようなことをしたのかを詳しくお聞きすることになります。つまり、社歴、地位、所属部署、担当業務、勤務態度、成績などその人に関わることや、問題になっている行為やその結果、影響などを、多角的に検討するわけです。同時に、その会社がどのような会社なのか、規模や事業内容、懲戒処分についてどのような姿勢を取っているのかといったことも考慮します。

 

 検討しながら思うのは、そもそも会社はどうして社員を懲戒できるのかということです。契約という点から言えば、会社と社員は雇用関係に立っているにすぎません。その一方当事者が他方当事者を懲らしめる、制裁を与えるというのは、何だか上から目線で、おかしな話です。とはいっても、会社の就業規則を見ると、大抵の会社は、懲戒処分について定めを置いていますし、懲戒すること自体は違法ではないと一般的に考えられています。

 

 では、懲戒せずに、会社はやっていけないでしょうか。そうでもないのではないかと私は考えています。

 懲戒をする目的を考えるとき、二つのことが思い浮かびます。一つは、本人に反省を促して更生させること。もう一つは、制裁により社内の規律を維持することです。刑法の世界では、それぞれ、「特別予防」、「一般予防」などと言われるものです。

 ここで、懲戒処分の内容をみると、よくある例では、軽いものから、「戒告」に始まり、「減給」や「降格」を経て、極刑といわれる「懲戒解雇」に至るわけですが、雇用の契約ルールに基づいたとしても、似たような措置を取ることは可能です。戒告は書面で注意・指導し、減給は損害賠償、降格は成績評価により、懲戒解雇は普通解雇で対応、といったようにです。このような方法でも、適切に運用すれば、十分に本人は悔い改め、他の社員もしっかりやらなければと引き締まることになるのでないでしょうか。

 

 たしかに、会社は一つの社会で、ルール違反にはペナルティをというのはわかりやすいですが、犯罪に対し国家が刑罰を科すという局面とは次元に違いがあるといわざるを得ないと思います。

 そうすると、懲戒処分は慎重に、さまざまな事情を多角的に検討し、バランスの取れた処分を公平に科すことが大切です。特に罰として会社から身分そのものを放逐する懲戒解雇については、感覚的な表現になりますが、だれから見ても「文句なく悪い」という場面で適用するのが適当です。紛争化した場合、懲戒権の濫用により無効とされるケースがしばしば見られるところです。

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