荒巻 慶士

UPDATE
2024.11.22

その他

ルールの軽視、倫理の無視

 最近驚いたことは、数々の違法行為で起訴された身でありながら、ドナルド・トランプ氏が再度、米大統領に選ばれたことである。日本では、政治資金の問題を抱えた自民党が総選挙で敗北したことに国民の良心の一端が現れたかと思いきや、ここへ来て兵庫県知事選で斎藤元彦氏が当選したので、改めて驚いた。県議会に百条委員会が設置されること自体そうある事態ではなく、その調査状況によればパワーハラスメントの疑いが強いことが明らかであるからだ。

 

 ルールに対する意識の弱まりは危険水域にあるかに見える。ルールを取り巻く職業倫理などは無視に近いか。ルールを守ることは最低線であり、政策はそれを守った上での是非論であろう。権力を持つ者のルール違反を是認すると、その権力行使は手段を選ばないことになり、弱肉強食の世界が現れる。

 

 わが法曹界に目を向けると、金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー取引が強制捜査を受けたところであり、元検事の弁護士が準強制性交罪で起訴された。検察は過去には証拠を改ざんするという事件を起こしている。違法を監視する立場の者がルール違反をしているようでは、法の支配もがたがたになる。

 

 いったいだれがルールなど守るのかという事態は困る。常識を常識といえる世の中、子どもに常識を語れる世の中でありたいものである。

後藤 慎吾

UPDATE
2024.10.22

その他

死について

今年の夏に母校の早稲田大学高等学院で「法学特論」という授業を担当する機会があった。受講生の3年生たち(この学校に通う生徒を校内では学院生という。)は、あまりに若く、まぶしかった。そういう彼らと今の私の違いは何かと考えたときに、それは「死」に対する感覚の違いなのかもしれないと思った。 

 

私は、高等学院に通っていた当時は自分の死が想像できなかった。至極当然のことだが、これまでに死ななかった人はいないし、当時も毎日のように訃報のニュースを目にしたはずだが、いつも他人事のように感じていた。なので、授業の冒頭で彼らに「君たちは永遠に生きると思っているんじゃないか。」などと挑発的なことを言ってしまった。 

 

私は、4年前に母を亡くした。母の死は、私にとって、人の死がどのようなものかを理解した初めての経験だった。そして次は私の番なのだと思った(父はまだ健在だが)。 

 

授業の最後に、学院生たちに私が好きな坂本龍一が生前好んで使っていた「Art is long, life is short.」という言葉を送った。これはヒポクラテスが医師を志す若い医学生に言った言葉で、坂本は芸術の意味で用いていたが本来のArtは技術(医術)という意味なのだという。人生の過半をとうに過ぎた私には身につまされる言葉だが、若い彼らにどこまで響いたのかは定かではない。大人になってようやく理解できることは多くある。死もそのうちの1つなのだと思う。 

荒巻 慶士

UPDATE
2024.09.23

その他

定年なき世界

 敬老の日を機に、65歳以上の高齢者の就業者数が過去最高を更新したとの報道に触れた。年々増加しているという。今後もこの傾向は続くだろう。

 足元で高齢者を巡る法律相談が増えている。障害者や女性に関わる相談もしかり。だれもが区別なく働ける社会が志向されている。

 

 使用者には現在、65歳までの雇用が義務化されている。令和3年からは、70歳までの就業確保措置が努力義務とされた。多くの法制度が努力義務を経て本格義務化されており、70歳までの義務化が視野に入っている。定年制の全面廃止も遠くない将来に、おそらく実現するだろう。

 

 定年なき世界がうまく回るためのポイントを考えてみたい。

 まず、就労したい高齢者の取り巻く環境は人それぞれであるから、働き方の選択肢が多く確保されることだ。また、健康状態など変化に応じて、働き方を変えられることが望ましい。

 他方で、使用者の利益も考慮して、処遇を中心とした労働条件については、働きに見合ったものであるべきだろう。けれども、働きがいを感じる待遇ではあってほしい。このあたりの思い違いをなくすためには、雇用に当たって、十分な説明と納得を踏まえた合意が重要だと思う。

 大切にしたいのは、リタイアの時期を自分で選べるということだ。経済的な労働の強制になることは避けなければならない。就労・稼得により年金を減らさないことも必要だ。

 

 かつては一律引退が当たり前だった。父は、いよいよ「サンデー毎日」、と笑っていたものだ。ある意味お気楽であったが、複線的なシニアライフが楽しめる世界は素敵である。 

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